統合失調症の悩み・困りごと(前編・症状 周囲との関係) 専門家による解説

もくじ  

 

統合失調症は、およそ100人に1人がなる、とても身近な病気です。しかし、「どんな病気なのか知らない」という方も多く、誤解が生じやすいとも言われます。ハートネットTVでは、統合失調症の当事者が周囲の人に「これだけは知ってほしい!」というお悩みやお困りごとについてのアンケートを実施。その結果、245人の統合失調症のみなさん(家族、支援者の代筆含む)が回答を寄せてくださいました。アンケートを監修した精神科医・高木俊介さんの考察と合わせて、結果をご覧ください。

高木俊介

高木俊介さん

精神科医
臨床のかたわら、地域での暮らしの支援を行う多職種チームACT-Kを立ち上げ、医療と福祉の垣根を超えた活動で当事者との関わりを続けてきた。

症状で困っていること

アンケート調査は、大きく3つの設問があり、それぞれに選択肢と自由記述欄を設けました。実際の問いに沿って、結果を見ていきましょう。

【1】あなた(当事者)が、ご自身の症状で困っていることは何ですか? 最大3つまでチェックを入れてください

グラフ こまっていること

上位3つをみてみると、
1位「不安や孤独を感じる」(169人)、
2位「身体的な症状(だるい、眠い、気力が続かないなど)」(136人)、
3位「薬に関する問題(多剤投与/副作用など)」(109人)
となっています。
また、「自分がだめな人間だと思ってしまう」と回答した方も99人と、上位3件についで多い結果となりました。

高木さん : まず強調しておきたいのは、統合失調症という病気は、実にさまざまな形をとって現れる病気だということです。100人のこの病気の人がいれば、100様の病気のあらわれがあります。幻覚や妄想のような、周りの人から見てもわかるような激しい症状に日夜襲われて苦しんでいる人もいれば、一見するとまったく病気とはわからないようでも、日々の生活の何気ないことにうまくやれなさを感じている人まで、その苦しさは病気の人の数だけあると言ってもよいでしょう。なので、専門家の間でも統合失調症という病気はひとつの病気ではなく、たくさんの違う病気の集まりだという意見があり、最近ではそのような見方が強くなっています。それでも、この状態にはこの治療だという決定的な治療がなく、長い経過の中では一時的であってもほとんどの人が他の人と共通する何らかの症状を現していることから、今のところひとつの病気(障害)だとみなしているのです。ですから、「症状について困っていること」と問われると、本人も周りの人もほんとうに様々なことに思い当たります。それが、今回のアンケートにもよくあらわれていると思います。

―具体的には、どのようなところに着目されたのでしょうか。

高木さん : 周囲の人は多くの場合、わかりやすい、目につきやすいところに注目しますから、統合失調症の場合だと、「幻覚や妄想がある病気だ」と思い、本人が幻覚や妄想に自分で気づけないことに呆れたり、イライラしたりしてしまいます。ところが、このアンケートをみると、「誰かに悪さをされているように思う」「その場にいない人の声が聞こえる」という、医学的にみれば幻覚や妄想と言われることに困っていると答えた人は少なく、「不安や孤独を感じる」という気持ちや「身体的な症状」に困るという人がずっと多いのです。もちろんアンケートですから、問い方によって答えが変わるかもしれません。それでも、何が病気の本人にとって切実に感じられているのかということがよくわかります。


―上位3つについて、自由記述の欄にみなさんが書いてくださった声も見てみましょう。


●「不安や孤独を感じる」に関する記述

「将来に関する漠然とした不安。失業手当てが切れそうになっても再就職先が見つからずに焦って無理な仕事に就いて再発した」(トリあたま/40代)

「友達がそばに居ても、距離が離れている気がする。職場では常に孤独感を感じる」(チェミ/30代)

●「薬に関する問題(多剤投与/副作用など)」に関する記述
「働いているので薬を少しずつ減らしていく予定ですが、昔よりも記憶力が低下した気がしています」(りりぃ/40代)

「薬をやめたいのに家族が反対する。飲む飲まないは、私の自由のはずなのに」(鈴美/30代)

「先日、薬の影響でふらつきがあり、先生に話した。そしたら副作用止めとして、また薬が出た。どんどん増えてつらい。内科的に良くならないと、精神薬の調整が困難であると言われた」(パクちゃん/50代)

「入院中に、とある薬をMAX処方されて服用してから手の震えが出てきて、日常生活に支障をきたしています」(うしがえる/50代)

●身体的な症状(だるい、眠い、気力が続かないなど)に関する記述
「とにかく眠く、症状を知らない人に怠けていると思われている気がして憂鬱になります」(あお/40代)

「絵の仕事をしたいのですけど、体が重く感じて1日1時間半くらいしか絵を描くことが出来ません。しかも毎日は出来ず、週4日が限界です。これでは何の仕事も雇ってもらえないです」(りんごチーズ/40代)

「服薬で幻聴、妄想等のいわゆる陽性症状は早期に治ったのだが、気力・集中力が出ない、続かないなどの陰性症状が長期に渡って改善せず、社会復帰がままならない」(ポン太/50代)

 

―まず、薬に関する悩みは、どうご覧になりましたか。

高木さん : 薬は統合失調症の方々の苦しさを和らげるのにとても役に立ちます。幻覚や妄想の迫真性が薄れ、それに距離をとって現実的なことを考えやすくします。そしてなによりも考えがまとまるようになり、周りの人に自分の考えや気持ちを伝えやすくなります。ところが、その薬によって悩みが増えてしまうのも、多くの当事者にとっての現実ですね。これも人によって実にさまざまなのですが、薬の副作用があります。多いのは、眠い、体がだるくなる、手足が震える、太るなどで、本人にとってはどれもつらいことです。この病気の人はそういう悩みも主治医に対してうまく伝えられないことが多いのです。でも、まず自分が薬のせいではないかと思っていることは伝えてみましょう。それを一緒に考えるのは主治医の仕事ですから。とは言っても、再発が怖くてなかなか減らしたり変えてみたりできないものです。それでついつい薬が必要以上に多くなってしまうのです。でも、薬が治療のすべてではありません。人と話す場をもったり日常生活のストレスを少なくしたり、病気を軽くするのによいことはたくさんあります。それがなかなか提供できていないことが、今の日本の精神科医療の遅れたところです。これをなんとかしていきたいですね。


―不安や孤独、身体的な症状についての声も切実ですが、当事者の皆さんへ伝えたいことはありますか。

高木さん : 皆さんの困りごとをよく読むと、「不安」「孤独」「劣等感」「いなくなりたい気持ち」「体の具合」など、人間にとって普遍的な、誰でも大きなストレスを抱えたり、人生の挫折に直面したり、あるいは激しく疲れ切った時には誰でも感じ、ほとんどの人が多かれ少なかれ経験したことがある心や体の調子ばかりです。ご本人であるあなたのつらさは心の病気が原因としてあって人には伝えにくいものかもしれませんが、それだけではありません。そのつらさは、あなた自身が現実の生活の中でぶつかっているさまざまな困難のために、押しつぶされてしまいそうなまでに大きくなっているのです。そうであれば、この現実社会のつながりの中で助けを求めることができます。そして、現実に手をさしのべることができるのだということを忘れないでください。あなたがあなたの困り事、つらさを言葉にして、こうして皆が触れることができるテーブルの上に載せることができたということが、もうすでにあなたの生きる意味をつくっているし、素晴らしいことだと思います。


周りとの関係で困っていること

【2】あなた(当事者)が、周りとの関係で困っていることは何ですか? 最大3つまでチェックを入れてください

画像(グラフ 周りとの関係で困っていること)
上位2つをみてみると、1位「無理解(病気をわかってもらえない)」(150人)、2位「差別、偏見」(142人)となっており、統合失調症という疾患がまだまだ理解されていない現状がうかがえます。自由記述も見てみましょう。


●無理解(病気をわかってもらえない)に関する記述

「たびたび体調を崩してしまうことを、『甘え』や『だらしない』、『責任感がない』などと周囲の人に受け取られ、そのことで責められる」(蝉太郎/40代)

「家族や親戚と疎遠になりました。精神病の家族は要らない…むしろ邪魔みたいです。私は人間として生きているのに、隠されるべき存在なのかと考えると悲しくなることがあります」(竹原/40代)

「みんな、回復したいけれど思うように薬が合わなかったり、その時の環境だったり、色々なことが理由で元気になることが難しかったりする。それなのに、周りは、あの子はあんなに元気なのに、どうしてあなたはしっかりしないのと、しっかりしていることを求められてしまう。しっかりしたいのはみんなの願いで、回復したい気持ちも同じです」(リッサ/30代)

「統合失調症と友達に打ち明けても『手術すれば治るんでしょ?』と言われたり、薬の副作用で凄く太ってしまったのを『自己管理ができてない』と言われてしまったり分かってもらえません」(りーあ/20代)


●差別・偏見に関する記述

「ネット上では誹謗中傷のために統合失調症という言葉の書き込みをよく目にします。統合失調症をいじめの対象として吊し上げているように感じます」(みため30代のバツイチ独身女/40代)

「前の職場で上の人に病気を打ち明けたらいつの間にか職場全員が知って居て、裏でアイツはビョーキ!ビョーキ!と言われて居たことです」(りこ/30代)

―本人の気持ちが苦しくなるようなやりとりが、実際にたくさん行われているのですね。

高木さん : 心の病全般に言えることですが、統合失調症の場合は特に本人が切実に感じていることと、周りが本人の様子から見て取れることや感じることが大きく食い違ってしまうことが多い病気です。私たち現代人はようやく、体の疲れよりも、神経の疲れ、心の疲れのほうが何倍も自分自身にとってきつく、苦しいことだということを知るようになりました。トラウマとなる出来事に遭遇した時のように、心の傷やそのための心の疲れは何年も、時には一生続くことがあります。体は意識せずとも疲れると自然に休息できますが、心の休息というのは、実はとても難しいのです。まずは、体が休息できなければ、もちろん心も休息できません。そのための、睡眠や食事がひじょうに大切です。心の病気では、多くはこの睡眠や食事がうまくいかず、必要な体の休息すらとれなくなるのです。ところが、その体の休息をまず確保し、心が立ち直るのをじっくりと待つために、日中からどうしても横になる、うまくいけば一日中でも寝ている時に、周りの人はそんなに寝ていたら体も心もなまってしまうじゃないかと思って、多くは善意から叱咤激励します。これが本人にはつらいのです。


―では、周囲としては、どんなふうに受けとめるのがよいのでしょうか。

高木さん : 私たちもみんな、たとえば大きな手術をした後は、こんこんと何日でも寝ていることがあります。ストレスを抱えている最中はなかなか眠りにくく辛い思いをしますが、その時期が去るとただただ一日中眠い時期が続くのも、みなさんがよく知っていることです。体の場合は手術の傷跡が消えていき、それとともに心も元気になるのが周りにもわかりやすいのですが、心の病気ではこの傷の治りが周りの目には見えません。こういった知識がもっと世間に広まるといいのですね。統合失調症という病気がどういう病気かということを、教科書に書いてあるようなことを知っても、なかなかうまくいかないと思います。人間の心というものは、「こわれもの」なのですが、弱肉強食の闘争の時代が長かった人類は、なかなかそのことに思い至らずに来ました。今でも弱肉強食の経済戦争が続いていますが、そのような社会が変わっていくといいですね。そして、そうなれば多くの偏見が過去のものになります。それまでは、心ない偏見が横行する社会ですが、そんな社会よりも小さい集まり、「隣のアライさん」(=味方)がたくさんいてくれる小さな村を目指しましょう。

 

 

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